今年で入社4年目を迎えるOLは上司にも同僚にも高く評価されていた。
単に仕事が出来るからという訳ではない、後輩の面倒見も良く気がついたら先輩にもさりげなくアドバイスをするという気配りもあったからだ。
特別な美人でもないが充分な女らしさも兼ね備えていた。
社内でも嫁さんにしたい女性社員の上位に位置していた。
そんなある日上司から特別に与えられていた仕事を終えて、評価を待ち望んでいたら顔は見えないものの、にこやかな雰囲気の上司から電話があった。
「今回の仕事も君に頼んで正解だったよ。」「次の企画を頼みたいのであとで来てくれないか?」
上司は個室を与えられていた。
OLは「では1時間後でしたら丁度手すきになりますが、それからで宜しいでしょうか?」
と確認して電話を切り、やりかけの仕事を済ませてしまおうとパソコンに向かった。
ところが、この日に限ってPCの調子が悪い、これはこれで締め切りのせまった仕事になり、しかも上司のまた上の上司から直接おおせつかった仕事である。
OLには焦りが見え始めた。
そこで、やむを得ず直属の上司に連絡を入れて申し出た。「先ほどの用件ですが、こういう事情で追われています。」「今回は後輩の由美さんを代理で向かわせたいと思いますがかまわないでしょうか?」
時間をずらせば自分が向かう事も可能、しかし仕事を遅らせることが何よりも嫌いなOLは比較的手がすいていて未だに実績の少ない後輩にもチャンスを与えてあげようとの配慮から2年後輩の由美を指名した。
上司はOLに甘い。
何よりも彼女のおかげで仕事も順調だからいうがままに了承した。
OLは後輩の由美に経緯を説明して仕事の方は自分もフォローするからと約束して上司のもとへ向かわせた。
ここまでは何も問題は無いはずだった。
しかし、完璧にこなしたはずの前回の仕事にミスが発覚する。
ありえないはずの致命的なミスなのだが仕事を任せたのが信頼しているOLだったためにチェックも甘かった。
上司がこれに気がついたのは由美が到着する5分前の事である。
あたり前だが由美には何の責任も無い。
しかし、5分前まで上機嫌だった上司の怒りは理不尽にも由美に向けられた。
そして、仕事の説明でさえもが雑で難解なものになってしまったのである。
困惑したのは由美のほうであるが、先輩の代理とはいえ上司に直接頼まれたからにはやり遂げたい。
そして出来ることなら先輩のチカラも借りずにやってみたいという思いが働いた。
かくして、その後数日は残業続きの毎日だった。
いつかは先輩のように信頼されるOLになりたいとの熱い願望がパワーになった。
しかし、これが後に仇になる。
上司のおそまつな説明のおかげで肝心な部分の計算を間違い、叱責のネタを作ることになる。
そして、残業続きの毎日も報われず上司からの評価は下がってしまった。
もちろん責任の所在は上司にある。
しかし、その上司のもとへ向かわせたのは先輩のOLだった。
先輩OLの気配りが裏目に出て結果は間逆のものになってしまったことを当の本人は気付いていない。